21.05.20

 職場の受話器を取ると中国語の自動音声が流れている。自動音声特有の溌剌とした発音と整然としたリズムが、音の重なりのなかに余白を持たせている。そこに薄く乾いたノイズのさらっとした質感と、それが言葉も通じないような遠くから、実際に通じていない言葉で、いま掛かってきているというときに感じる距離感とかすかな不安感が乗っかり、妙に浮ついた心地になる。1月のコルカタの空港に着いてターミナルビルを出た瞬間に、埃っぽい匂いとまだ湿気を含み始めたばかりのぬるい空気、クラクションと人のけたたましい話し声の壁がワッと迫ってきたときのイメージが記憶の引き出しからはみ出してきているので、引き出しを閉じて電話を切る。