21.06.04

 東西線が落合を過ぎて地上に出るとまだ明るい。まだ今日が終わらないような明るさで、地下を静かに潜航していた気分がこちらの同意なく晴れる。ひとの乗り降りや窓から差す光や色とともに気分や思考が入れ替わっていく。乗り換えに失敗しながら映画館に向かっていた時間が、「言葉は想像力を運ぶ電車です 日本中どこまでも想像力を運ぶ『私たち』という路線図 一個の私は想像力が乗り降りする一つ一つの駅みたいなもので」と続く、映画のなかで読まれる詩と共振する。同じ駅に止まった別の路線の車両が、発車直後のわずかな時間にだけ並走する。またすぐに離れていってしまう二つの線が、一瞬だけ漸近する。走る電車が向こうに見える橋の上を二人連れ立ち、夜の明けていく速度で歩く。ひとが共にあろうとして言い淀み、躓きながら言葉を交わし合うなかでほとんど奇跡のように偶然到来する時間。この漸近の、この並走の瞬間のためならいくらでも言葉を尽くす。