21.05.30

 イメージフォーラムで矢作さんに偶然会う。映画館で遭遇することが多い。約束をしなくても、ここに行けばこの人に会えるかもしれない、という場所がいくらかある。何を話そうかとか頭の隅で考えながら向かうけれど、そういうときは大概誰にも会わず、会うときの多くは不意の遭遇になる。観客席に知人がいるときは、このひとはいま何を、どう観ているだろうかと、自分の目にエミュレートしたその人の視点を重ねて観てしまう。複眼になったような感じがして、ひとりで観るときよりも楽しいと思う。観客席に自分とは違うひとがいて、そのひとたちの視点を借りると目の前にある出来事が何もわからなくなるということが、演劇や映画を観ていて最もスリリングな瞬間だし、それを味わうためにわざわざ劇場に通っている。もちろんひとの視点を借りるというのは不可能なのだけれど、そうしようとすることで自分の目が合わせてしまうフォーカスが弱くなっていって、段々パンフォーカスになる。演劇も映画も、できればパンフォーカスで観たい。